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十訓抄:大江山(品詞分解)



十訓抄:大江山(現代語訳)





    ・和泉式部、保昌が妻にて、丹後に下りけるほどに、

    ⇒ 「和泉式部」は、平安中期の歌人。【和泉式部日記】の作者。(「和泉式部」の人間関係
    ⇒ 「にて」は格助詞で「資格(この場合”妻”の資格)」を表す。
    ⇒ 「丹後に下る」は、都から地方に行くことを「下る」と言う。(今の電車の「上り」「下り」も同じ)


    ・歌合

    ⇒ 「歌合(うたあはせ)」⇒「うたあわせ」と読み、「歌会」の事。
    ⇒ 当時の貴族の「仕事」「能力」はいかに素晴らしい歌(和歌)を詠むかであった。


    ・小式部内侍、歌詠みに取られて詠みけるを、

    → 「小式部内侍」「歌詠み」「に」「取ら」「れ」「て」「詠み」「ける」「を」
    → 「小式部内侍:名詞(体言)」「歌詠み:名詞(体言)」「に:格助詞」「取ら:ラ行四段・未然形」「れ:受身の助動詞・連用形」「て:接続助詞」「詠み:マ行四段・連用形」「ける:過去の助動詞・連体形」「を:接続助詞」

    ⇒ 「取ら」「れ」は「採用される」

    ➡ 小式部内侍が歌詠みに選ばれて歌を詠んだところ

    ➡ 「小式部内侍」が突然に出てくるが、これは冒頭の「和泉式部」の娘であるという前提がある。とはいえ、それは触れていないので、盛りこむ事も必要。そして、何より今回の話の眼目が「歌人として名高い和泉式部」の娘を試そう(嫌味を言おう)として返り討ちにあうと言う部分でもあるので、「親は能力がある」が果たして子供は?という部分も隠れているのであるから、「高名な和泉式部の娘である」という意味を理解しておくことは大事だろう。
    ➡ また、「歌合」に出る(採用される)と言うのは、相当に注目を浴びると言う事で、無名の小式部が出るのは「親の七光り」的なイメージもあったはずで、その辺の事もあっての色々とも見える。


    ・定頼中納言たはぶれて

    ⇒ 「たはぶれ」は「ふざけて」「からかって」の意味。

    ➡ 「定頼中納言(藤原定頼)」は、平安当時に文化人として名声を欲しいままにした「藤原公任」の息子。
       いわば、親の七光り同士の二世対決の様な感じだが、その様な状況下でマウントを取ろうとした?
       のかどうかは定かでは無いが、定頼は小式部に仕掛けをしていく。


    ・小式部、局にありけるに、

    → 「ける:過去の助動詞・連体形」

    ⇒ 「ける」が連体形で、特に後ろに名詞(体言)が無い場合には、何かを補って訳すと良い。
    ⇒ 「局(つぼね)」は「部屋」の意味。

    ➡ 小式部が部屋に居る時に、


    ・丹後へ遣はしける人は参りたりや

    → 「丹後」「へ」「遣はし」「ける」「人」「は」「参り」「たり」「や」
    → 「丹後:名詞(体言)」「へ:格助詞:」「遣はし:サ行四段・連用形」「ける:過去の助動詞・連体形」「人:名詞(体言)」「は:格助詞」「参り:ラ行四段・連用形(動詞)」「たり:完了の助動詞・終止形」「や:係助詞」

    ⇒ 「遣はし」は、「遣唐使の遣」であり、元々使役の意味も含む(漢文など)。
    ⇒ 「参る」は【敬語】であり、「参る」の上に何も動詞が無いので「本動詞」。また、これは定頼中納言から小式部へ向けての会話なので、謙譲語となり、定頼中納言➡小式部内侍への敬意を表す。(当然、丹後に参るのは、小式部では無く使用人であり、移動している使用人を高めても仕方が無い。使用人の行動を(低めて)それを受ける主人である小式部(を高める)のために謙譲語となる。)
    ⇒ 「や」は疑問。

    ➡ 丹後へ遣はした人は戻って戻って参りましたか?

    (要するに、定頼中納言は、小式部という母親は有名であるがまだ無名の歌人に、和歌を母親(がいる丹後)に聞きに行かせたのですか?と意地の悪い質問を投げかけたのである。)


    ・いかに心もとなくおぼすらん

    → 「いかに:副詞」「心もとなく:形容詞ク活用・連用形」「おぼす:サ行四段・終止形(敬語)」「らん:現在推量の助動詞・連体形」

    ⇒ 「いかに」は「どうして(どれだけ)~~か」という意味をもたらす副詞。文末の「らん」が影響を受ける。
    ⇒ 「心もとなく」は「じれったい(やきもきしている)」の意味。
    ⇒ 「おぼす」は【敬語】であり、「思う」の尊敬語。ここは発言者の定頼中納言から小式部に対しての尊敬の意味を表している。

    ➡ どれほどじれったく思っていらっしゃるでしょうか


    ・局の前を過ぎられけるを

    → 「局」「の」「前」「を」「過ぎ」「られ」「ける」「を」
    → 「局:名詞(体言)」「の:格助詞」「前:名詞(体言)」「を:格助詞」「過ぎ:ガ行上一段・未然形」「られ:尊敬の助動詞・連用形」「ける:過去の助動詞・連体形」「を:接続助詞」

    ⇒ 「られ」は【尊敬の助動詞】。地の文であり、作者から(行動している)定頼中納言に対しての敬意を表している。

    ➡ 部屋の前をお過ぎになられたのを


    ・御簾

    ⇒ 「御簾(みす)」。竹や葦で作られた部屋の仕切りとして使う当時のカーテンの様なもの。

    ・直衣

    ⇒ 「直衣(なほし)」。「のうし」と読み、当時の貴族の着物。(「直衣」について


    ・大江山いくのの道の遠ければ まだふみも見ず天の橋立


    ・思はずにあさましくて

    → 「思はずに」「あさましく」「て」
    → 「思はず:形容動詞ナリ活用・連用形」「あさましく:形容詞ク活用・連用形」「て:接続助詞」

    ⇒ 「あさまし」は「驚きあきれる」の意味で古文では重要な必須単語。

    ➡ 「思はず」「あさまし」共に「驚く」の意味で重複もしているので、単純に「驚いて」と訳すのも良いし、逐語訳として「思いもよらず驚いて」とするのも良い。


    ・「こはいかに、かかるやうやはある」

    → 「こ」「は」「いかに」「かかる」「やう」「やは」「ある」
    → 「こ:代名詞」「は:係助詞」「いかに:形容動詞ナリ活用・連用形」「かかる:連体詞」「やう:名詞(体言)」「やは:係助詞」「ある:ラ変・連体形」

    ⇒ 「いかに」は「一体~~」の意味。
    ⇒ 「やは」は「や+は」で【係り結び】を導く。(末尾の「ある」が連体形になっている)
    ⇒ 【係り結び】の場合に「疑問・反語」かは文脈を考える。ここの文脈では小式部がこのような(素晴らしい)歌を即座に自力で返すとは思わなかったので、「反語」を使う。

    ➡ これは一体(で留まるのも尻切れトンボなので「どうした」を補う)、このような事があるだろうか(いやない)


    ・逃げられけり

    → 「逃げ」「られ」「けり」
    → 「逃げ:ガ行四段・未然形」「られ:尊敬の助動詞・連用形」「けり:過去の助動詞・終止形」

    ⇒ 「られ」が尊敬なので、敬意の対象(定頼卿に対して)を意識して訳す。

    ➡ お逃げになられた。


    ・覚え出で来にけり

    → 「覚え」「出で来」「に」「けり」
    → 「覚え:名詞」「出で来:カ変・連用形」「けり:過去の助動詞・終止形」

    ⇒ 「覚え」は「評判・名声」の意味。
    ⇒ 「出で来」は「来」の複合動詞。

    ➡ 名声が出てきた。


    ・うちまかせて

    → 「うちまかせ」「て」
    → 「うちまかせ:サ行下二段・連用形」「て:接続助詞」

    ⇒ 「うちまかす」は「普通の事」の意味。小式部の実力からすれば普通の事。


    ・理運

    ⇒ 当然なるべき事。(「道理」の「運命」)


    ・詠み出だすべし

    → 「詠み出だす」「べし」
    → 「詠み出だす:サ行四段・終止形」「べし:可能の助動詞・終止形」

    ⇒ 「べし」は幾つも意味があるが、ここは「歌を詠む」という動作が出来るかどうかなので「可能」と解する。


    ・知られざりけるにや

    → 「知ら」「れ」「ざり」「ける」「に」「や」
    → 「知ら:ラ行四段・未然形」「れ:尊敬の助動詞・未然形」「ざり:打消しの助動詞・連用形」「ける:過去の助動詞・連体形」「に:断定の助動詞・連用形」「や:係助詞」

    ⇒ 「れ」は「尊敬」。ここを「自発」と出来なくもないが、やはり定頼卿の事を指しているので「尊敬」で解する。
    ⇒ 「ざり」は下に「助動詞ける」が続くので「ず」では無く「ざり」を使う。
    ⇒ 「に」「や」はセットで良く使われるが、下に「あらむ」などを補って(省略されている)訳す。

    ➡ ご存じなかったのであろうか