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伊勢物語9段:東下り①(あずまくだり) 品詞分解

伊勢物語9段:東下り①(あずまくだり) 現代語訳・品詞分解《前半》


      昔、男がいた。
      その男は自分の身を何の役に立たないものと思いこんで、都にはもう居るまい(住むまい)、東国の方に住むのに良い国を探そうと出かけた。
      以前から(もともと)友人としている人、一人二人と共に行った。
      道を知っている人も無くて、迷いながら行った。
      (そうして)三河の国の八橋という所に着いた。



    ・男→ 「男」とあるが、これは、この作品(伊勢物語)の主人公である【在原業平:ありわらのなりひら】のことを指す。

    ・えうなき→ 「役にたたない」の意味の形容詞。「連体形」で終わっているのは、下に「もの」という名詞が続くからである。

    ・京にはあらじ→ 「京」「に」「は」「あら」「じ」→ 「京:名詞」「に:格助詞」「は:係助詞」「あら:ラ変動詞[ある]・連用形」「じ:打消し意思の助動詞じ:終止形」→「ある」が「居る」の意味を表し、「じ」は「~~しまい」と言う意味なので、「京にはおるまい」という意味に訳す。

    ・住むべき国→ 「住む」「べき」「国」→ 「住む:マ行四段動詞・終止形」「べき:適当の助動詞べし:連体形」「国:体言」→ 「べき」には様々な意味があり(「いりょう[推量]」「[意思]」「[勧誘]」「[当然]」「[命令]」「[適当]」)どれを訳し充てられるかは(初心者には)難しい。この文の場合には京都を離れて東国に住む(のに相応しい)場所を求めていると言う意味が背景にあるので「適当」として考える。

    ・道知れる人→ 「道」「知れ」「る」「人」→ 「道:体言」「知れ:ラ行四段・已然形」「る:存続の助動詞り:連体形」「人:体言」→ 「助動詞り」は「四段動詞の已然形」に接続をする(「りかさみしい」完了の「り」は、サ変の未然、四段の已然に接続するとの意味)。「り」は「完了」と「存続」の意味を有するが、下に「体言(名詞)」を接続する場合には「存続」で訳すことが多くなる。今回も「人」に接続するために、「道を知っている人」と考える。



伊勢物語9段:東下り①(あずまくだり) 現代語訳・品詞分解《中盤》


      そこを八橋と言ったのは、川の流れが蜘蛛の足のよう(に八方に分かれている)なので、
      橋を八つ渡している事から八橋というのであった。
      その沢のほとりの木の蔭に馬から降りて、座って乾飯を食べた。
      その沢にかきつばたが大層すばらしく(美しく)咲いていた。
      それを見て、ある人が言うには、「かきつばたという五文字を和歌のそれぞれの句の頭に置いて、旅の心を詠みなさい。」と言ったので、(その男が)詠んだ。



    ・八橋といひけるは→ 「八橋」「と」「いひ」「ける」「は」→ 「ける」は過去の助動詞「けり」の連体形。「ける」の下に「体言」が無いのに連体形になっていることから、体言があるものとして「~~の事」を補って訳すると良い。

    ・蜘蛛手→ 蜘蛛の足の様に分かれている様子(四方八方へ、四方八方からと言う意味合い。平家物語の木曾殿の最後でも蜘蛛手と言う表現が出てくる。)

    ・なれば→ 「なれ」「ば」→ 「なれ:断定の助動詞なり:已然形」「ば:接続助詞」→ 「已然形」+「ば」なので、「~~ので」「~~だから」と訳す(順接の確定条件)

    ・八つ渡せる→ 「八つ」「渡せ」「る」→ 「八つ:体言」「渡せ:サ行四段・已然形」「る:存続の助動詞り:連体形」→ 上述した様に「完了の」が連体形となる場合には「存続」として「~~ている」と訳す場合が多く、ここもその場合に当たる。

    ・なむ、八橋といひける。→ 「なむ:係助詞」➡「ける:助動詞けり:連体形」の関係で【係り結び】となっている。「係り結び」は強調するためにしているので、訳す際には強調して訳せれば良いが、適切な訳が無ければそのままでも良い。

    ・下りゐる→ 「下り」+「ゐる(居る)」の複合動詞。「ゐる(居る)」は「座って」と訳す。

    ・乾飯→ 乾燥したお米の事。平安時代の保存食として一般的なもの。「ほしいひ」「かれひ」などと読む。

    ・おもしろく→ 「形容詞ク活用おもしろし:連用形」。「素晴らしい」「美しい」と訳すが、訳語としては「プラスイメージ」を持つものと考えると良い。

    ・咲きたり→ 「咲き」「たり」→ 「咲き:カ行四段・連用形」「たり:存続の助動詞たり:終止形」→ 「完了形」として訳すと「咲いた」となるので「存続」で訳す。

    ・言ひければ→ 「言ひ」「けれ」「ば」→ 「言ひ:ハ行四段動詞・連用形」「けれ:過去の助動詞:已然形」「ば:接続助詞」→ ここも「已然形」+「ば」なので、上述のように「~~ので」「~~だから」と訳す(順接の確定条件)

伊勢物語9段:東下り①(あずまくだり) 現代語訳・品詞分解《後半》



      唐衣が
      何度も着ているうちに慣れるように
      長年慣れ親しんできた妻が(都に)居るので、
      こんな遠くまで来た
      旅をしみじみと(悲しく)思う。

      と詠んだので、誰もがみな、乾飯の上に涙を落として(その乾飯が涙で)ふやけてしまった。



    ・唐衣→ 「からごろも」と読む。

    ・きつつなれにし→ 「き」「つつ」「なれ」「に」「し」→ 「き:カ行上一段動詞・連用形」「つつ:接続助詞」「なれ:ラ行下二段動詞・連用形」「に:完了の助動詞:連用形」「し:過去の助動詞:連体形」

    ・つましあれば→ 「つま」「し」「あれ」「ば」→ 「つま:体言」「し:副助詞」「あれ:ラ変・已然形」「ば:接続助詞」

    ・はるばるきぬる→ 「はるばる」「き」「ぬる」→ 「はるばる:副詞」「き:カ変・連用形」「ぬる:完了の助動詞:連体形」

    ・旅をしぞ思ふ→ 「旅」「を」「し」「ぞ」「思ふ」→ 「旅:体言」「を:格助詞」「し:副助詞」「ぞ:係助詞」「思ふ:ハ行四段・連体形」

    ・よめりければ→ 「よめ」「り」「けれ」「ば」→ 「よめ:四段動詞・已然形」「り:完了の助動詞:連用形」「けれ:過去の助動詞:已然形」「ば:接続助詞」

    みな人→ 旅を共にしている人は皆(誰もが皆)と訳す。

    ・ほとびにけり→ 「ほとび」「に」「けり」→ 「ほとび:バ行上二段・連用形」「に:完了の助動詞:連用形」「けり:過去の助動詞:終止形」→ 「ほとぶ」は「ふやける」の意味。「に」+「けり」は良く出てくる並び方で、「~~てしまった」などと訳す。


「東下り」:「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」(和歌の技法の解説)

「東下り」:「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」(和歌の技法の解説)