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杏林大学:2015年
近年の杏林大学の傾向としては【一行問題】としての出題である。
この一行問題については、好き嫌い(得意不得意)が分かれる出題でもあるのだが、その理由としては、自分で「定義」やら「具体例」を考えて行く必要があるという部分だろう。
しかし、逆に言えば「定義」から自分の考えを述べ、それを補強するor例としての事例を書いて行く事は、実は”論理的”な作業とも言えるのであり、そういう意味では理系向きな設問とも言える。
この2015年の出題は「嘘も方便」について問う設問であった。
(800字:60分)
「医学部」の小論文で、あたかも”諺”的なことが聞かれるとは、と訝しがる向きもあるかと思うが、別に「嘘も方便」の国語的な意味を問うて感想を書けということでは無く、当然「医師としての仕事」に関わる部分を前提にした出題である事は、直ぐに想像の付くことである。
そもそも「うそも方便」とは何かというと、「時と場合によっては嘘をつくこと(事実と異なる事を言う)も一つの方法である。」ということになるが、 それこそ、よくある医療ドラマや、漫画・アニメ等にある「患者さんが深刻な状態で、その際に本当の病状を告げるか」という場面が想像され、ドラマ的・劇画的に人間的な様々な苦悩や葛藤も含めて盛り上がる場面でもあるが、その様なヒューマンドラマ的な事を深堀りするところではない。
この「うそも方便」とは、医師の「患者さんに何処まで本当の事をいうのか?」という事の裏返し、すなわち「告知」についての出題であると考えなくてはならない。
(少々難しい話にはなるが、医師と患者との関係を、民事的に民法上の契約関係、その中でも準委任的なものとするか等のことはあるが、「医療行為」を医師と患者双方の合意に基づく関係により生じる事と考えれば、そこには当然に相手に対しての義務としての「報告義務」があるのは当然と言えば当然のこととなる。)
そして「告知」ということに関しては、「医療行為」が双方の合意であるとしても、その業務の内容の高度性・専門性(あるいは緊急性)という事から、「
高度な裁量
」が医師に認められて来た。
その事により、上述のドラマ的な様相も”一つの定番”として認識されていたわけだが、近年の人権意識の発達・浸透もあり、患者の「知る権利」や、医療行為に伴う「医療過誤訴訟」などの形で、「お医者さんのいうこと」に対しての自由な部分(裁量)も当然にその範囲を狭くすることになっていった。
そもそも「告知」が何のためにあるのか?という部分については、上述の法的な視点もあるが、医療を行う側と受ける側とがしっかりと情報共有をしてお互いの納得の上で進めて行く事が、患者さん(側)にとって有益であるということがある。
これは、当該病状において、「自己の人生をどのようにするのか(憲法13条の自己決定権)」という部分に関わるもので、その病気に罹患することで、どの様な変化が生じ、どの様なことに至るのかを知らなければ、何も進めていく事が出来ないからである。
「告知」に関しての司法側の姿勢として、最高裁は幾つかの変遷を経て、2002年に「医師の告知」に関して従来の裁量的な運営から「義務」として捉え直す判例の変更を行った。
これにより、病状や病名についての告知をする義務が「
原則
」となった訳だが、これに対して「
例外
」を容れる余地はないのか。
すなわち、ドラマ的なシーンは全く起こりえない事になるのかも考える必要があるが、そこは告知を受ける側の事情により様々な場合があると考えられるが、少なくとも、告知をする事が出来ない状態といった極端な場合を除いては難しいと思われる。
さて、実際にこれをどの様にまとめて行くのか?
①:まずは「定義」。「うそも方便」についての意味をしっかりと書く。
(これは一行問題だけに目立つ部分だが、他の形式であっても「定義」が重要なものや、分かっているものについては触れた方が良い)
②:一般の場合の事例を書くか?
「一般」と「医師」との場合の対比により、「医師」の業務や立場を浮き彫りにする事を意図して書くのは良いと思う。
③:「嘘はつけない」→「告知」という文章的な流れを出すとよい。
④:「告知」の変遷:「高度の裁量性」→「義務化」という事に触れる。
(なぜ、「告知」が必要であるのかについて書くこと)
⑤:「告知」の例外についてどこまで書けるか?
これについては、色々な事例が考えられるが、それを細かく書きこんでいく事は難しいだろう(時間的にも・分量的にも)が、例外的な事例については、それを考慮して行くという姿勢は大事だと思われる。
※なお、補足ではあるが、この「告知」(他、「同意」などについても)に関して【杏林大学の呉屋朝幸氏】が日本臨床倫理学会の中で述べられているので、一読しておくのも良いだろう。