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徒然草53段:はめをはずした余興(後半)品詞分解



徒然草53段:はめをはずした余興(後半) 現代語訳・品詞分解




    医者の所に入って、(鼎を被って)法師が医者と向かい合って座っていたと思われる様子は、
    さぞかし異様な様子であっただろう。
    (法師が)ものを言っても、(鼎の中に)こもった声で響いて聞こえない。
    「このような事は医書にも見えないし、(昔の人が)伝えた教えもない」と言うので、
    再び仁和寺へ帰って、親しい者や、年を取っている母親などが
    (その法師の寝ている)枕元に寄り集まって泣き悲しむのだが、
    (その法師は)聞いている様にも思われない。


    ・向かひゐたりけん → 「向かひゐ:ワ行上一段:連用形」「たり:過去の助動詞:連用形」「けん:過去推量の助動詞:連体形」 → 「ゐ(る)」とあるので、鼎を被った法師と医者が面と向かって座っている様子。

    ・さこそことようなりけめ → 「さ:副詞」「こそ:係助詞」「ことようなり:形容動詞ナリ活用:連用形」「けめ:過去推量の助動詞:已然形」

    ⇒ 「こそ」➡「けめ」で【係り結び】が成立しているので、「けむ」ではなく已然形の「けめ」となる。

    ⇒ 「ことようなり」は「異様」と書き、その漢字の意味通り、奇妙・異様な感じを表す。


    ・くぐもり声 → 鼎を被っているので、中から声を出しても反響した状態になる。

    ・聞こえず → 「聞こえ:ヤ行下二段:未然形」「ず:打消しの助動詞:終止形」 → 「聞こえ」の終止形は「聞こゆ」である。

    ・見えず → 「見え:ヤ行下二段:未然形」「ず:打消しの助動詞:終止形」 → 「見え」の終止形は「見ゆ」で、上一段の「見る」と区別すること。

    ⇒また、ここの「ず」は連用形であることに注意。読点(、)の前だからということもあるが、下に続く「教へもなし」とセットで考えられている点に注意したい。(この様に、連用形で区切って同種の事を述べるのを「連用中止法」と言ったりもする。)


    ・伝へたる → 「伝へ:ハ行下二段:連用形」「完了の助動詞:連体形」

    ・老いたる → 「老い:ヤ行上一段:連用形」「完了の助動詞:連体形」

    ⇒「伝へたる」「老いたる」は両方とも同じ構造である。そして「たる」と連体形なのに「完了」というのが悩ましいところである。


    ・親しき者 → 「親しき:形容動詞シク活用:連体形」「者:体言」 
     「形容動詞」の「ク活用」「シク活用」の識別はこちら。

    ・枕上 → 「枕もと」のこと。当然、横たわっているのは「鼎」を被った法師である。

    ・聞くらんとも覚えず → 「覚え:ヤ行下二段:未然形」「ず:打消しの助動詞:終止形」 → 「覚え」の終止形は「おぼゆ」で、「知覚する」という意味である。「誰が?」→「法師が」



徒然草53段:はめをはずした余興(後半) 現代語訳・品詞分解



    こうしているうちに、ある者が言うには、たとえ、耳や鼻がちぎれて無くなっても、命だけはどうして助からない事があるだろうか
    (いや助かるはずだ)
    ただ力を入れて(鼎を)お引きなさい」と言うので、
    わらの芯を(鼎の)周りに差し込んで、(顔から)鼎のかねを離して
    首もちぎれるほどに引いたところ、耳や鼻は取れて穴が開きながら抜けてしまった。
    (あと少しで)危ない命を拾って、長い間、病み伏していたという事であった。



    ・たとひ耳鼻こそ切れ失すとも → 「たとひ:副詞」「耳鼻:体言」「こそ:係助詞」「切れ失す:サ行四段:終止形」「とも:接続助詞」

    ⇒ 本来ならば「こそ」➡ で、係り結びが成立して「已然形」である「切れ失せ」となるところだが、ここは「終止形」となって係り結びが成立していない。これを「係り結びの流れ」と呼び、意味的に切れない場合などに係り結びを拒否する技法である。


    ・などか生きざらん → 「など:副詞」「生き:カ行上二段:未然形」「ざら:打消しの助動詞:未然形」「ん:推量の助動詞:連体形

    ⇒ ここは「係り結び」が成立している部分である。しかし「係助詞」は何処に?となるのだが、実は「などか」は「など+か」が集まって出来た単語で、一語で「副詞」としての機能を有するが「か」があるために「係助詞」の役割をも果たしているのである。

    ⇒ また「などか」は、反語を表す場合に使われ「どうして○○だろうか? いやない」という意味となる。


    ・引き給へ → 「引き:カ行四段:連用形」「給へ:ハ行四段:命令形」 

    ⇒ 「命令形」という言葉から「~~しろ」という言葉を想起するが、この「給へ」は尊敬の動詞(補助動詞)でもある。相手に敬意を払って「命令」を実行するのであるから「~~してください」と転換されることになるので注意。古文の中にはこのような尊敬の用法を使いつつ「命令形」を使う場合があるが、その場合は相手の立場が上であるということから訳語を考えると良い。


    ・かねを隔てて → 金を外して → 鼎を外して となる。

    ・耳鼻かけうげ → 耳鼻欠け穿げ → 「うげ」は「穿つ(うがつ:穴を開ける)」の変形したもの。

    ・からき命もうけて → 辛き命もうけて → 「辛き」は「ギリギリ・紙一重」の意味で「もうけて」は「儲ける」だが「拾う」という意味 → 以上から「命拾い」をして

    ・病みゐたりけり → 「病みゐ:ワ行上一段:連用形」「たり:完了の助動詞:連用形」「けり:過去の助動詞:終止形」 → 特筆すべきことは無いが「ゐ」で「寝る」の意味。「たりけり」は文末に良くある定番の表現。