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枕草子102段:中納言殿まいりたまひて 品詞分解



枕草子102段:中納言殿まいりたまひて 現代語訳・品詞分解《前半》


    中納言(隆家)殿が参上なさって、(中宮様に)扇を献上なさるときに、「私は(本当に)素晴らしい骨を手に入れております。」それに(紙を)貼らせてさしあげようと想いますが、並大抵の紙では(中宮様にさしあげるには足りないため)張る事が出来そうにないので、(素晴らしい紙を)探しております。」と申し上げる。  


    ・中納言殿→ 藤原隆家 藤原道長の従兄弟にあたる。道長と権力争いをした藤原伊周の弟。刀伊の入寇(1069)を撃退する功績を挙げる。ここに出てくる中宮とは兄弟である。

    ・「まゐり」「たまひて」→ 謙譲語+尊敬語 これは、隆家の姉弟ではあるが、中宮と言う自分よりも身分の高い人物のところに来ているので「謙譲」を、そして、隆家自身も身分の高いものであるから「尊敬」を使って動作を表す。

    ・「たてまつら」「せ」「たまふ」→ 謙譲語+尊敬の助動詞+尊敬語 これも「まゐり」「たまひて」と同じ構造であるが、「せ」「たまふ」と尊敬の部分が二つ重なっており、二重敬語になっている。二重敬語は特に高い身分の者の際に使われ、この場合は【地の文】であるために、作者(清少納言)→隆家への敬意を表す。
    (※ 上の「まゐりたまひて」「たてまつらせたまふ」の様に、敬意を表する人間が二つ現れる場合を【二方面敬語】と言う)

    ・こそ➡はべれ→ 【係り結び】となっている。また、「はべれ」と丁寧語が使われている。

    ・いみじき→ 大層・とても

    ・張ら「せ」→ 隆家は貴人であるので、自ら作業・労働の類はしないので、「使役」の「せ」を使っている。

    ・「まゐらせ」「む」→ 「まゐらせ」は「まゐらす」の未然形。意味は”さしあげる””献上する”。「む」は意志の助動詞。

    ・「え」張る「まじけれ」「ば」→ 副詞の「え」+「否定」でワンセット。「決して~~しない」などと訳す。「まじけれ」は不可能の助動詞。接続助詞「ば」は、已然形に接続しているので、「~~ので」「~~だから」と訳す。

    ・「申し」「たまふ」→ 謙譲語+尊敬語 これも中宮への敬意で謙譲語+隆家への敬意で尊敬語。そして【地の文】であるから、作者である清少納言から中宮への敬意(隆家を低めて中宮を高める)を出すために謙譲語、清少納言から隆家への敬意を出すために尊敬語を使っている。




    (中宮が)「どのようなものなのか」とお尋ね申し上げなさると、


    ・いかように「か」➡「ある」→ 【係り結び】となっている。 

    ・「問ひ」「聞こえ」「させ」「たまへ」「ば」→ 「動詞」+「謙譲の補助動詞」+「尊敬の助動詞」+「尊敬の補助動詞」+「接続助詞」となる。構造としては【謙譲】+【尊敬】+【尊敬】となり、先に出てきたようでに、中宮定子への敬意と、中納言隆家への敬意が二つ組み合わさった形になっている。
    (但し、ここで注意しなくてはいけないのが、謙譲語の「聞こえ」は中宮の行動であるから、「問う」ことをした中宮を低めて「聞いている」隆家を高める事になる。これは”中宮”と”臣下”ではるが姉弟と言う事もあっての事であろう。なので、「聞こえ」は作者である清少納言から隆家への敬意、「させたまへ」は清少納言から中宮への敬意となる。)


    (隆家様は)「すべて大層素晴らしいです。他の人々も『今までまったく見たことが無い様な骨の様子です。』と申しています。本当にこの様な骨は見たことがありません」と声高におっしゃるので、


    ・「さらに」➡「ぬ」 → 「さらに」は形容動詞ではあるが、下にある「ぬ」と連動して「まったく~~ない」と訳す。(副詞「え」~「打消し」と同じ役割を果たす)

    ・★1→ マ行上一段未然形

    ・「なむ」➡「申す」→ 【係り結び】。また、「申す」は謙譲語であり、会話の主が隆家であり、会話の相手が中宮であるから、隆家から中宮への敬意を表している。

    ・★2→ ヤ行下二段未然形

    ・「のたまへ」→ 尊敬語 【地の文】であるから、作者(清少納言)から隆家への敬意。



枕草子102段:中納言殿まいりたまひて 現代語訳・品詞分解《後半》




    (わたくしは)「そうであれば(そんなに珍しいのであれば)、扇の骨ではなくて、くらげの骨だと言う事ですね」と申し上げると、


    ・ここが”わたくし(清少納言)”となるかと言えば、【地の文】で「申す」が一つだけ使われているからである。他の部分は「申し」「たまふ」など、「申す」の他に「たまふ」と言う尊敬語が使われていて、貴人(ここでは隆家)を表しているからである。

    ・扇の「に」は→ 「に」は断定の「なり」の連用形であることに注意。


    ★3→ 「なる」「なり」→「なん」「なり」→「な」「なり」。「断定の助動詞・連体形」「推定の助動詞・終止形」が「断定の助動詞・連体形(撥音便)」+「推定の助動詞」になって、「なん」の「ん」が省略されて「な」と表記された状態。


    (隆家様は)「これは隆家の事(隆家が言った事)にしよう」と言ってお笑いなさる。


    ・し「て」「む」→ 完了の助動詞「て」(完了の助動詞「つ」の未然形)+意志の助動詞「む」が組み合わさった際には、【確定の助動詞「て」】+【意志の「む」】となって、「きっと~~しよう」と言う【強意】の意味になる。他に「な」+「む」などにも表れる。

    ・わらひ「たまふ」→ 「たまふ」は尊敬の補助動詞(「わらひ」が本動詞)。作者(清少納言)から隆家への敬意を表す。


    この様な事は、見苦しい(聞き苦しい)事の中にいれてしまうべき事であるけれども、「一つも書き漏らすな」と(皆さんが)言うので、(どうしようかと思うが)どうしようもない。


    ・かようのこと「こそ」➡「べけれ」→ 【係り結びの流れ】。「べけれ」の後ろに「ど」がついて、まだ文章が続いていくので、係り結びが流れている

    ・「つ」「べけれ」→ 完了の助動詞「つ」+当然の助動詞「べし」が組み合わさった場合には、【確定の助動詞「つ」】+【当然の「べし」】となって、「きっと~~である」「当然~~である」と言う【確定】の意味になる。(先の「て」+「む」と一緒の理屈)。

    ・「な」+「落とし」+「そ」→ 副詞の「な」+「連用形」+禁止の終助詞「そ」の組み合わせで、「~~するな」と言う【禁止の命令】となる。

    ・「いかが」+「は」+「せ」+「む」→ ”いかがは”と言う形で【疑問・反語】の意味となり、後ろの”せむ”と合わせて、「どうしようか?~~どうにもできない」と訳す。また、「は」➡「む」は【係り結び】となっている点に注意。