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徒然草32段:優雅なたしなみ 品詞分解



徒然草32段:優雅なたしなみ 現代語訳・品詞分解《前半》


    九月二十日のころ、ある人にお誘いを受けて、
    夜の明けるまで月を見て歩きまわった事がありましたが、
    (その方は)思い出される事があって、
    (お供の者に)取次ぎをさせて、お入りになられた。
    荒れている庭は(草が生え)露がたくさんむすぶうえに、
    いつも焚いている香の匂いが、しんみりとかおって、
    (この家の主人が)世間から隠れている様子が、
    たいへん、しみじみとした感じがする(心を深く打つ)。



    ・九月二十日→ 「ながつきはつか」とよむ。

    ・さそはれたてまつりて→ 「さそは」「れ」「たてまつり」「て」→ 「さそは:ハ行四段未然形」「れ」は「受身尊敬の助動詞の受身の連用形」「たてまつり」は「謙譲の補助動詞」「て:接続助詞」となる。「たてまつり」が補助動詞で使わているので【謙譲語】となるが、さそはれた自分を低めて誘ったある人を高めている事に注意。

    ・月見ありく→ 「月」「見ありく」→ 「月:名詞」「見ありく」は「見る+歩く」の変形したもの→ 月を見て歩きまわる

    ・はべり→ 丁寧語:【作者から➡読者への敬意】

    ・おぼしいづる→ 尊敬語:【作者➡ある人への敬意】

    ・案内せさせて→ 「案内せ」「させ」「て」→ 「案内せ:案内+すの合わさったもの:サ変の未然形」「させ」は「使役の助動詞」「て:接続助詞」となる。ここが「使役」なのは、「尊敬」とすると「ある人が兼好を案内なさって」と言う意味になりおかしな事となるから(「偉い人」は自分では何もしないのが鉄則)。

    ・入り給ひぬ→ 「入り」「給ひ」「ぬ」→ 「入り:ラ行四段・連用形」「給ひ」は「尊敬の補助動詞の連用形」「ぬ:完了の助動詞ぬ:終止形」。ここは普通にある人が「お入りになった」でOK

    ・荒れたる庭→ 「荒れ」「たる」「庭」→ 「荒れ:ラ行下二段・連用形」「たる:存続の助動詞:連体形」(「存続」となるのは、下に体言「庭」が続くから。「存続」なので「~~~ている」と訳す)。

    ・しげき→ 「しげき:形容詞しげく:連体形」。本来は「連体形」で終わっているので「~~な様子」などの体現を補って訳すと良い。

    ・わざとならぬ匂い→ 「わざとではない匂い」というのが直訳だが、作為的では無いという意味から「いつも」などと訳し直すと良い。

    ・しのびたるけはい→ 「たる:存続の助動詞:連体形」となるので「~~~ている」と訳す。「しのぶ(忍ぶ)」は「我慢する」ではなく「隠遁する隠棲する」との意味。

    ・あはれなり→ 形容動詞「あはれなる」の終止形。「あはれ」は「可哀想」ではなく、内面に向かうしみじみとした情感を表す。


徒然草92段:即時実行のむずかしさ 現代語訳・品詞分解《後半》



    (ある人は)ほど良い時間で(その家から)出ておいでになったけれども、
    (私は)やはりこの様子が優雅に思われて、ものの蔭から暫く様子を見ていたところ
    (この家の主人は)出入り口の開き戸を少し開けて、月を見ている様子である。
    (客を送る時に)すぐに戸を閉め家に入ったならば、どんなに残念な事だっただろうに。
    (この家の主人は)客が帰った後までも観ている人がいるとはどうして知っているだろうか。
    いや知るはずはない。
    このような事(優雅な振る舞い)は、まったく日常の心掛けによるものだろう。
    その方は、その後まもなく亡くなってしまったと聞きました。



    ・出で給ひぬれど→ 「出で」「給ひ」「ぬれ」「ど」→ 「出で:ダ行下二段・連用形」「給ひ」は「尊敬の補助動詞の連用形」「ぬれ:完了の助動詞:已然形」「ど:接続助詞」

    ・優に →形容動詞「優なり」の連用形、後ろに「おぼえて」と動詞「おぼゆ」(ダ行下二段・終止形)が続くので「優に」となる。「優に」の意味は「優れている」の意味のあるが、ここでは「優美である優雅である」。

    ・★1 見→ 動詞「見る」(マ行上一段・連用形)

    ・★2 居→ 動詞「居る」(ワ行上一段・連用形)

    ・妻戸 → 「両開きの戸」のこと。左右に引いて開けるタイプのものは【遣戸(やりど)】という。

    ・かけこもらましかば、くちをしからまし→ 「かけこもら」「ましか」「ば」「くちをしから」「まし」→ 「かけこもら:ラ行四段・未然形」「ましか:反実仮想:未然形」「ば:接続助詞」「くちをしから:形容詞シク活用・未然形」「まし:反実仮想:終止形」
    → 「ましか」+「」~~「まし」の組み合わせで「もし~~ならば~~だろうに」と訳す。ここはこの文章における文法上一番重要な部分。「」は「順接の仮定条件」として反実仮想の「ば」には大抵ついて回る。「くちをし」が「くちをしから」と補助活用になっているのは、下に続くのが助動詞であるから。
    → 現代語訳としては、戸を直ぐにしめて家の入ったなら、残念だっただろうにとする。

    ・いかでか知らん→ 「いかで」は副詞だが、「か」の部分に係助詞と同じ働きを持ち、下に続く「知ら」+「ん」の「ん」が終止形ではなく連体形となる(係り結び

    ・よるべし→ 「よる:ラ行四段・終止形」「べし:推量の助動詞:終止形」。「べし」は「当然」ばかりではなく「推量」も出てくるので注意。ここは作者の感想であるべき論ではないので「推量」と考える。

    ・失せにけり→ 「失せ:サ行下二段・連用形」「に:完了の助動詞:終止形」「けり:過去の助動詞:終止形」。「に」+「けり」の組み合わせで「~~してしまった」と訳すのは定番。

    ・聞き侍りし→ 「聞き:カ行四段・連用形」「侍り:丁寧の補助動詞・連用形」「し:過去の助動詞:終止形」。ここの最後が「」となっていて、前の部分に「にけり」とあるのは、過去の助動詞でも直接体験をした」と間接体験(伝聞)をした「けり」との違いである。「侍り」は丁寧語であり作者から読者への敬意を表すのは前と同じ。