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選択肢の考え方と言葉の持つ意味の射程


  • 先日、センター試験の講義をした際に、「言葉の持つ意味の射程」という事で面白い選択肢があったので、載せてみたい。
    (2016年本試験第2問の問3)
    傍線部A「何か私のほうが残念な気がして言い出す。」とあるがこのときの私の心情はどのようなものか。

    ① 座席を買えずに子どもや荷物を抱えて汽車に乗る母親の苦労が思いやられたので、夫婦が険悪な雰囲気のまま別れることに耐えられなくなり、父親の示した優しさを彼女に伝えて二人を和解させたいと思った。
    ② 車内でいさかいを起こすような他人と私とは無関係なのに、父親と男の子が別れを惜しむ場面に共感してしまい、家族に対する夫の無理解を嘆くばかりの彼女にも、単身で東京に残る夫のことを思いやってほしいと訴えたくなった。
    ③ 自分が座っていられる立場にある以上、座席を買う余裕もなく赤ん坊の世話に追われる夫婦のいざこざを放っておいてはいけないように思え、せめて男の子が父親と別れたときのけなげな姿を母親に伝えたいと思った。
    ④ 偶然乗り合わせただけの関係なのに、その家族のやりとりを見ているうちい同情心が芽生え、妻子を放り出して行ったように見えた夫にも、男の子を見送ろうとする父親らしさがあることを、彼女にも知らせたいと思った。
    ⑤父親と別れて落ち着かない男の子を預かっているうちに、家族の様子が他人事とは思えなくなり、おとなしくするように言うばかりの母親に、周囲の物珍しさで寂しさを紛らわそうとする男の子の心情を理解してほしくなった。

    と言う選択肢が並んでいるわけだが、この2016年の第2問は1950年頃の夜行列車の中の事を題材にした小説を素材にした設問であり、終戦直後(第二次世界大戦・太平洋戦争後)の疲弊と混乱の程ではないが、これから復興していくと言う前夜のお話であろうか。 その辺の事までを把握すると、より一層深い読み込みに繋がるのだろうが、その事が分からなくても戦後70年以上を経た現在も「帰省ラッシュ」の乗車率100パーセント超えの状況で立って何時間も目的地に帰った(行った)事のある人からすれば、時代は下っても人の営みや心理にはそう変化はないなという事に気が付くところか。
    それはこの設問の意図でもあるだろうが、今回ここで触れたいのは「選択肢」と「言葉の意味の射程」である。
    この5つの選択肢を見て、多少不思議な(あるいはオヤ?と思う)選択肢が2つある。
    それは、①と②の末尾なのだが、①………和解させたいと思った。 ②………訴えたくなった。とある。
    言葉の字ずら(表面)だけからすれば、和解させたいや訴えたいという事に何か不思議な事があるわけではないが
    しかし、良く考えると、選択肢全体に書いてあることは「とにかく、親子のもめごと」ではあるな??という事は分かるが、座席を買えないとか赤ん坊の世話とかの文字が見える中で「和解」や「訴えたい」と言うのは穏やかではない。「和解」や「訴えたい」と言うのは法律系の揉め事を想起させるだろう。
    だが、②の選択肢を良く読めば、彼女に心情を訴えたいという事であって何か「法律的な何か」ではない。
    他方、①の選択肢を読めば、喧嘩している夫婦の「和解」をしたいという事で、「仲直り」をさせたいという意味の言い換えで「和解」という表現を使っているとも思う事ができる。
    が?、ここで良く考えて欲しいのは、「和解」と言うのをどういう場面で使うのかという事だろう。
    確かに、戦前(1945年以前)は明治民法の規律の下で家長や勘当などと言う家族関係にまつわる法律上の諸々があり、親子関係や夫婦関係が非常に激烈な状況に陥る事もシバシバあっただろう。(そういう意味で文学作品の志賀直哉の「和解」などを読む事は良いのでしょうが)
    しかし、今現在で「和解」などと言う人間関係の場面で浮かぶのは、漫画の美味しんぼの海原雄山と山岡士郎の話くらいで、後は日経新聞か何かの経済上の問題で出てくるか、本当に法律上の和解という事くらいだろう。
    まあ、そういうどちらかと言えば特殊な状態での仲直りで使うのが「和解」と言う単語であり、その射程は非常に狭い。
    それを分かれば、①の選択肢は悩みがあっても切れる訳だが、下手に和解=仲直りという事だけを頭にインプットしていると解答する際に大いに悩む事になる。
    もちろん、その悩む→調べる(別にスマホで結構)→認識する→覚える と言うプロセスを繰り返して頂いて → 語彙が増える と最終的になってくれれば幸いな訳だが、結局のところ、現代文においては文字の認識や読解が重要と言う事に変わりはないと。
    そんな事を改めて認識させてくれる問題(選択肢)でありました。